朝は岩のように体が重い。
寝不足なわけでもない。
昨夜飲み過ぎたわけでもない。
あさ鬱なのである。
過去のあらゆるストレスが溜まりに溜まって、ストレスを感じることの全てから逃げたくなってしまうのだ。
きつい仕事。
かみ合わない夫婦の会話。
発達障害児の子育て。
何もかもが嫌になってしまった。
ベッドから起きると、またストレスだらけの世界に入っていかなければならない。
そんな気持ちからいつしか朝が嫌いになってしまったのだ。
いや、嫌いではない、ものすごく嫌いになってしまったのだ。
そんな理由で、私はあさ鬱と診断された。
ちなみに、発達障害の人は鬱の人が多いと私が通うメンタルクリニックの主治医はおっしゃっていた。
とは言え、会社を休むわけにはいかず、10tはあろうかと感じる岩の体を無理やり起こし、いつものように朝の支度をすませ会社に向かった。
電車に乗り、いつもの駅を降り、改札を抜けるとかなり長い階段がある。
割と大きな駅なので階段の横幅もかなりある。
会社は階段を降りると、そこから徒歩3分のところにある。
つまり、勤め先は駅前で便利な立地にある。
便利でいいですね?と思ったあなた。
冗談ではない、行きたくない会社にすぐ着いてしまうではないか。
そのため長い階段を降りる時はいつも足取りが重く、ゆっくりゆっくり降りるのである。
帰りは帰宅なので足取りは軽いはずなのに、登り階段になるので日頃の運動不足もあり、朝よりも更に足取りは重くなる。
なので実のところ帰りはエスカレーターで登り、階段で登ったことは一度もないのだが……
だったら、この情報いらないよね……。
まあ発達障害なので、会話がかみ合わなくても気にしないでください。
出社時に、いつものように、階段をゆっくりゆっくり降りていると、私の少し右後ろから親子の会話が聞こえてきた。
お母さんと女の子の2人のようだ。
女の子は小学校高学年くらいだろうか。
女の子はお母さんに話し始めた。
「ねえ、ママ知ってる?優秀な会社員って歩くのがすごく早いんだって!」
「階段だって素早く降りちゃうんだって!」
どんな情報だよ、と私は思った。
女の子は更に続けた。「こんな感じで降りるんだよ!」
お母さんが「危ないからやめなさい!」っと言っても女の子は聞かずに駆け下りた。
女の子はちょうど私の隣あたりで止まってこう言った。
「ねえ、早いでしょ!でも優秀な会社員はもっと早く降りるんだから!」
私はその情報源を一体どこから仕入れたのか、女の子に聞きたくなった。
女の子は更に話を続けた。
「でね、使えない会社員は逆に歩くのがすごく遅いんだって!」
「丁度、こんな感じ!」と言って、女の子は真っすぐ私を指差した。
私は女の子と目が合った。
お母さんは慌てて「すみません!あんた何、失礼なこと言ってるの!」
「もう、本当にすみません!」と言って、お母さんは女の子の手を引きながら小走りに階段を降りていった。
私は思わず笑ってしまった。
楽しい子だなと思った。
この日の朝は少し楽しかった。
翌日から、毎朝階段を素早く降りる会社員がいるらしい。
その人が私かどうかは知りませんが……
ちなみにこれは実話です。
第2回 2022.1.7
【発達障害あるある】大人の発達障害の朝はあさ鬱?